産婦人科とは
産婦人科は、女性の健康を生涯にわたって支える診療科です。大きく分けて「産科」と「婦人科」の二つの領域から成り立っています。産科は妊娠・分娩・産後のケアを専門とし、婦人科は月経トラブル、子宮・卵巣の疾患、更年期障害など女性特有の疾患全般を扱います。多くの医療機関では「産婦人科」として両方の領域を一体的に診療しています。
産婦人科は思春期から老年期まで、女性のライフステージに合わせた診療を行う点が大きな特徴です。初潮を迎えた思春期の月経の悩みから、妊娠・出産、更年期の不調、そしてがん検診まで、年齢や時期に応じたさまざまな健康課題に対応しています。
近年では「婦人科は妊娠したときに行くところ」というイメージは変わりつつあり、月経痛の相談や子宮頸がん検診、ピルの処方、不妊治療など、妊娠の有無にかかわらず幅広い目的で受診する女性が増えています。女性の生活の質(QOL)を高めるために、かかりつけの産婦人科を持つことが推奨されています。
産婦人科が対応する主な症状・疾患
産婦人科では、以下のような多岐にわたる症状・疾患に対応しています。
- 月経困難症(生理痛):月経に伴う強い下腹部痛、腰痛、頭痛、吐き気などの症状です。日常生活に支障をきたすほどの痛みがある場合は治療の対象となります。子宮内膜症や子宮筋腫が原因のこともあります。
- 月経不順・無月経:月経周期が極端に短い・長い、月経が来ないなどの状態です。ホルモンバランスの乱れ、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、甲状腺疾患、過度なストレスや体重変化などが原因として考えられます。
- 過多月経・不正出血:月経量が異常に多い、月経期間以外に出血があるなどの症状です。子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮体がんなどの可能性も含めて検査が行われます。
- 月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD):月経前にイライラ、気分の落ち込み、むくみ、頭痛、乳房の張りなどの身体的・精神的症状が繰り返し現れる状態です。
- 子宮筋腫:子宮の筋肉にできる良性の腫瘍で、30歳以上の女性の20〜30%に見られるとされます。大きさや発生部位によって、過多月経、貧血、圧迫症状(頻尿・便秘)などを引き起こします。
- 子宮内膜症:子宮内膜に似た組織が子宮の外(卵巣、腹膜など)に発生し、月経のたびに炎症や癒着を起こす疾患です。強い月経痛や不妊の原因となることがあります。
- 子宮頸がん:子宮の入り口(頸部)にできるがんで、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が主な原因です。定期的な検診により早期発見が可能です。
- 子宮体がん(子宮内膜がん):子宮の内側の膜にできるがんで、不正出血が初期症状として現れることが多いです。閉経後の女性に比較的多く見られます。
- 卵巣嚢腫・卵巣腫瘍:卵巣にできる嚢胞(袋状の腫瘍)や腫瘍です。小さいうちは無症状のことが多く、健診で発見されることもあります。大きくなると腹痛や腹部の張りを感じることがあります。
- 卵巣がん:初期症状が出にくく「沈黙のがん」とも呼ばれます。腹部の膨満感、食欲不振、頻尿などの症状が進行してから気づくことが多い疾患です。
- 妊娠の管理(妊婦健診):妊娠が判明してから出産までの定期的な健康管理です。胎児の成長確認、母体の健康チェック、合併症の早期発見・対応を行います。
- 切迫早産・切迫流産:早産や流産の危険性がある状態で、安静や薬物療法による管理が行われます。
- 妊娠高血圧症候群:妊娠中に高血圧やたんぱく尿が出る状態で、母子ともにリスクがあるため、適切な管理が重要です。
- 不妊症:妊娠を望んで一定期間(一般に1年)性交渉を行っても妊娠しない状態です。タイミング療法から体外受精まで、段階的な治療が行われます。
- 更年期障害:閉経前後の約10年間に、ホルモンバランスの変化によってのぼせ(ホットフラッシュ)、発汗、動悸、不眠、気分の落ち込みなどさまざまな症状が出る状態です。
- 外陰部・腟の炎症(カンジダ腟炎・細菌性腟症など):かゆみ、おりものの異常、痛みなどの症状を伴う感染症・炎症です。
- 性感染症(クラミジア・淋菌感染症など):性行為によって感染する疾患で、無症状のこともあるため検査が重要です。放置すると不妊の原因になる場合があります。
- 子宮脱・骨盤臓器脱:加齢や出産によって骨盤底の支持組織が弱まり、子宮や膀胱が下垂する状態です。
受診すべきタイミングの目安
※以下はあくまで目安です。症状の重さや組み合わせにより緊急度は異なります。不安を感じたら早めに医療機関を受診してください。
以下のような場合には、産婦人科への受診を検討してください。
- 月経痛がひどく、市販の鎮痛薬が効かない、または日常生活に支障がある場合
- 月経周期が極端に不規則(25日未満または39日以上)な場合
- 3か月以上月経が来ない場合(妊娠の可能性がない場合も含む)
- 月経量が極端に多い(ナプキンを1時間ごとに交換する必要がある等)場合
- 月経期間以外に出血がある場合
- おりものの量や色・においに異常を感じる場合
- 外陰部にかゆみ、痛み、腫れがある場合
- 下腹部に持続する痛みやしこりを感じる場合
- 妊娠の可能性がある場合(市販検査薬で陽性の場合は早めに受診)
- 妊娠を望んで1年以上経っても妊娠しない場合
- 更年期症状(のぼせ、発汗、不眠など)で日常生活に困っている場合
- 子宮頸がん検診を1年以上受けていない場合(20歳以上の女性は定期的な検診が推奨されます)
- 避妊についての相談をしたい場合
特に、妊娠の可能性がある場合は早めの受診が重要です。また、不正出血は機能性出血など良性の原因が多いですが、がんの初期症状として現れることもあります。自己判断せず、必ず医療機関を受診してください。閉経後の出血は特に早期受診が重要です。
受診・診療の流れ
産婦人科を受診した際の一般的な流れを紹介します。
- 問診:最終月経日、月経周期、妊娠・出産歴、現在の症状とその経過、既往歴、服用中の薬(ピル・サプリメント含む)などについて問診票に記入します。デリケートな内容も含まれますが、正確な診断のために大切な情報です。
- 内診・視診:必要に応じて内診が行われます。膣鏡(クスコ)を用いて子宮頸部の観察を行い、内診で子宮や卵巣の大きさ・位置・痛みの有無を確認します。初回受診で必ず行われるわけではなく、症状に応じて判断されます。
- 超音波検査(エコー):経腟超音波(プローブを腟に挿入して行う検査)または経腹超音波(お腹の上から行う検査)で、子宮・卵巣の状態を画像で確認します。子宮筋腫、卵巣嚢腫、妊娠の確認などに広く用いられます。
- 各種検査:症状に応じて、血液検査(ホルモン値、腫瘍マーカー、貧血の有無など)、子宮頸部細胞診(子宮頸がん検診)、HPV検査、おりもの検査(感染症の確認)、MRI検査などが行われます。
- 診断・治療方針の説明:検査結果をもとに、診断内容と治療の選択肢が説明されます。薬物療法、ホルモン療法、手術療法など、患者さんの年齢や妊娠の希望なども考慮しながら治療計画が立てられます。
初めての産婦人科受診は緊張する方も多いですが、検査の前には必ず説明があり、同意を得てから行われます。女性医師を指定できる医療機関もありますので、受診前に確認しておくとよいでしょう。
産婦人科で使われる主な検査・治療法
産婦人科で用いられる代表的な検査・治療法を紹介します。
- 経腟超音波検査:小さなプローブを腟に挿入して、子宮や卵巣をリアルタイムで画像化する検査です。子宮筋腫や卵巣嚢腫の確認、妊娠初期の胎嚢・心拍確認に不可欠な検査です。
- 子宮頸部細胞診(パップテスト):子宮頸部の細胞をブラシで軽くこすり取り、異常な細胞がないかを顕微鏡で調べる検査です。子宮頸がんの早期発見に用いられ、20歳以上の女性に2年に1回の検診が推奨されています。
- HPV検査:子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスの感染の有無を調べる検査です。細胞診と組み合わせて行われることがあります。
- コルポスコピー(膣拡大鏡検査):細胞診で異常が見つかった場合に、子宮頸部を拡大して観察し、必要に応じて組織を採取(生検)する精密検査です。
- ホルモン療法:低用量ピル(OC/LEP)やホルモン補充療法(HRT)など、ホルモン製剤を用いた治療です。月経困難症、PMS、子宮内膜症、更年期障害などに幅広く用いられます。
- 子宮鏡検査・手術:子宮の内部に細いカメラを挿入して観察・治療する方法です。子宮内膜ポリープの切除や子宮粘膜下筋腫の治療に用いられます。
- 腹腔鏡手術:腹部に小さな穴を開けてカメラと器具を挿入して行う手術です。子宮筋腫核出術、卵巣嚢腫摘出術、子宮内膜症の治療などに用いられ、開腹手術に比べて傷が小さく回復が早いのが利点です。
- 不妊治療:タイミング療法(排卵日に合わせた性交渉の指導)、排卵誘発、人工授精(AIH)、体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)など、原因や状況に応じた段階的な治療が行われます。
- 分娩管理:自然分娩、無痛分娩(硬膜外麻酔)、帝王切開など、母子の状態に応じた分娩方法が選択されます。
- 子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)相談:子宮頸がんの予防に有効なHPVワクチンの接種相談や実施を行っている医療機関もあります。
産婦人科の選び方・ポイント
産婦人科の医療機関を選ぶ際のポイントを紹介します。
- 診療内容の確認:産科のみ、婦人科のみ、または両方を扱っているかを確認しましょう。妊娠に関する受診であれば産科対応の有無、月経トラブルや検診であれば婦人科の診療内容を確認してください。
- 分娩施設の有無:妊娠中の通院先で出産も行いたい場合は、分娩設備のある病院・クリニックを選ぶ必要があります。無痛分娩を希望する場合は対応可否も確認しましょう。
- 不妊治療の専門性:不妊治療を希望する場合は、一般不妊治療のみか、高度生殖医療(体外受精・顕微授精)まで対応しているかを確認してください。専門クリニックを選ぶのも選択肢です。
- 医師の性別:女性医師を希望する場合は、女性医師が在籍しているか、指名制度があるかを事前に確認しましょう。
- プライバシーへの配慮:待合室の個室化、呼び出し方法(番号制など)、診察室のカーテンの配置など、プライバシーへの配慮がなされているかも重要なポイントです。
- 緊急時の対応体制:妊娠中の場合は特に、夜間や休日の緊急対応が可能かどうかを確認しておくことが大切です。
- 通いやすさ:妊婦健診は定期的な通院が必要で、婦人科疾患の治療も継続通院になることがあります。自宅や職場からのアクセスのよさは重要な選択基準です。
- 口コミや評判:特に出産を予定する場合は、実際に通院・出産した方の体験談を参考にすると、医療機関の雰囲気やケアの質がイメージしやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q. 産婦人科と婦人科の違いは何ですか?
産婦人科は産科(妊娠・出産)と婦人科(女性特有の疾患全般)の両方を扱います。婦人科は妊娠・出産を除く女性特有の疾患を専門とします。月経の悩みや検診であれば婦人科、妊娠に関する受診であれば産科または産婦人科を選びましょう。
Q. 生理痛がひどいのですが、産婦人科を受診すべきですか?
市販の鎮痛薬で改善しない、または年々痛みが強くなっている場合は受診を検討してください。子宮内膜症や子宮筋腫が原因である可能性もあります。低用量ピルやホルモン療法など、月経痛を軽減する効果的な治療法があります。
Q. 子宮頸がん検診は何歳から受けるべきですか?
20歳以上の女性に2年に1回の子宮頸がん検診が推奨されています。自治体が実施する検診では無料または低額で受けられることが多いです。HPVワクチンを接種していても、定期的な検診は重要です。
Q. 初めての受診ですが、内診はありますか?
症状や受診目的によります。必ずしも初回から内診が行われるわけではなく、まず問診や超音波検査のみで対応されることもあります。不安がある場合は、予約時に確認したり、診察時に医師に伝えたりしましょう。
Q. ピル(低用量ピル)はどのような目的で処方されますか?
避妊目的のほか、月経困難症の治療、月経周期の調整、PMS(月経前症候群)の軽減、子宮内膜症の進行抑制、肌荒れの改善など、さまざまな目的で処方されます。定期的な検査のもとで安全に使用することが重要です。
Q. 更年期障害の治療にはどのようなものがありますか?
ホルモン補充療法(HRT)が代表的な治療法で、減少した女性ホルモンを補うことで症状の改善が期待できます。ほかに漢方薬やプラセンタ療法なども用いられ、症状や体質に合わせて選択されます。
Q. 不妊治療はいつから始めるべきですか?
一般に、妊娠を望んで1年以上妊娠しない場合に不妊症と定義されますが、35歳以上の場合は半年を目安に受診を検討するのがよいとされています。不妊の原因は多岐にわたるため、早めに検査だけでも受けておくと安心です。
Q. 妊娠がわかったらいつ頃受診すればよいですか?
市販の妊娠検査薬で陽性が出たら、月経予定日から1〜2週間後を目安に産婦人科を受診してください。あまり早すぎると胎嚢が確認できないこともありますが、出血や腹痛がある場合は早めに受診してください。
Q. 男性は産婦人科に付き添いで入れますか?
多くの医療機関では、パートナーの付き添いを受け入れていますが、待合室の広さや他の患者さんへの配慮から制限がある場合もあります。事前に医療機関に確認しておくとよいでしょう。
Q. おりものの異常はどのような場合に受診すべきですか?
おりものの色が黄緑色や灰白色、においが強くなった、量が著しく増えた、かゆみや痛みを伴うなどの場合は、腟炎や性感染症の可能性があるため受診してください。
まとめ
産婦人科は、妊娠・出産だけでなく、月経トラブル、子宮・卵巣の疾患、更年期障害、がん検診など、女性の健康を幅広くサポートする診療科です。思春期から老年期まで、ライフステージごとにさまざまな健康課題に対応しており、早めの受診や定期的な検診が健康の維持と疾患の早期発見につながります。気になる症状があれば、一人で悩まず産婦人科に相談してみてください。