泌尿器科とは
泌尿器科は、腎臓・尿管・膀胱・尿道といった尿路(尿の通り道)と、男性の前立腺・精巣・陰茎などの生殖器に関する疾患を専門的に診療する診療科です。尿を作り、ためて、排出するという一連の機能に関わるすべての臓器を対象としており、排尿トラブルから腎臓の疾患、男性特有の疾患まで幅広く対応しています。
泌尿器科というと「男性が行く診療科」というイメージを持つ方もいますが、膀胱炎や尿失禁、腎結石など女性にも多い疾患を数多く扱っており、性別を問わず受診が必要な診療科です。近年では「女性泌尿器科」として、女性の排尿トラブルや骨盤臓器脱に特化した外来を設ける医療機関も増えています。
内科が薬物療法を中心に全身的な治療を行うのに対し、泌尿器科は手術や処置を含む外科的治療も得意とする点が特徴です。内視鏡手術やロボット支援手術など低侵襲な治療法の進歩が著しい分野でもあり、患者さんの身体的負担が少ない治療の選択肢が広がっています。
泌尿器科が対応する主な症状・疾患
泌尿器科では、以下のようなさまざまな症状・疾患に対応しています。
- 膀胱炎(急性・慢性):膀胱に細菌が感染して炎症を起こす疾患で、排尿時の痛み、頻尿、残尿感、尿の濁りなどの症状が特徴です。特に女性に多く、再発しやすい疾患としても知られています。
- 腎盂腎炎:腎臓に細菌が感染する疾患で、高熱、背中や腰の痛み、寒気などの症状が現れます。膀胱炎が悪化して発症することが多く、適切な治療を受けないと重症化する場合があります。
- 尿路結石(腎結石・尿管結石・膀胱結石):尿路に結石(石)ができる疾患です。特に尿管に結石が詰まると、激しい腰や脇腹の痛み(疝痛発作)が起こります。再発率が高く、生活習慣の改善も重要です。
- 前立腺肥大症:加齢に伴い前立腺が大きくなり、尿道を圧迫して排尿しにくくなる疾患です。頻尿、尿の勢いの低下、残尿感、夜間頻尿などの症状が見られます。50歳以上の男性に多く見られます。
- 前立腺炎:前立腺に炎症が起きた状態で、急性と慢性があります。急性前立腺炎では高熱と排尿困難が見られ、慢性前立腺炎では会陰部の不快感や排尿時の違和感が続きます。
- 前立腺がん:日本でも増加傾向にある男性のがんです。初期には自覚症状が出にくいため、PSA(前立腺特異抗原)検査による早期発見が重要とされています。
- 膀胱がん:血尿(特に痛みを伴わない血尿)が初期症状として現れることが多い疾患です。喫煙が危険因子の一つとして知られています。
- 腎臓がん(腎細胞がん):初期には症状が出にくく、健康診断の超音波検査などで偶然発見されることが多い疾患です。
- 過活動膀胱:急に我慢できないような強い尿意(尿意切迫感)が起こり、頻尿や切迫性尿失禁を伴う状態です。中高年の男女に広く見られます。
- 尿失禁(腹圧性・切迫性・混合性):咳やくしゃみで尿が漏れる腹圧性尿失禁、急に尿意を感じてトイレまで間に合わない切迫性尿失禁などがあります。出産経験のある女性や高齢者に多く見られますが、治療で改善が期待できます。
- 神経因性膀胱:脊髄損傷、糖尿病、脳卒中などの影響で膀胱の神経がうまく働かなくなり、排尿に障害が出る状態です。
- 水腎症:尿管の閉塞などにより腎臓に尿がたまって腎臓が拡張した状態です。結石や腫瘍が原因となることがあります。
- 精巣腫瘍:精巣にできる腫瘍で、20〜30歳代の若い男性に比較的多く見られます。精巣の腫れやしこりで気づくことが多い疾患です。
- 精巣捻転:精巣がねじれて血流が途絶える緊急疾患です。突然の激しい陰嚢の痛みが特徴で、早急な手術が必要です。
- 勃起障害(ED):十分な勃起が得られない、または維持できない状態です。血管障害、神経障害、心理的要因など原因は多岐にわたります。
- 男性不妊:精子の数や運動率の低下など、男性側に原因がある不妊の診断と治療を行います。
- 包茎・亀頭包皮炎:包皮が原因で炎症を繰り返す場合に治療の対象となります。
- 尿道炎(性感染症含む):排尿時の痛みや尿道からの分泌物を特徴とする尿道の炎症です。クラミジアや淋菌などの性感染症が原因となることがあります。
受診すべきタイミングの目安
※以下はあくまで目安です。症状の重さや組み合わせにより緊急度は異なります。不安を感じたら早めに医療機関を受診してください。
以下のような症状がある場合には、泌尿器科への受診を検討してください。
- 排尿時に痛みや灼熱感がある場合
- 頻尿(昼間8回以上、夜間2回以上)が気になる場合
- 尿の色が赤い、茶色い、またはピンク色(血尿)の場合
- 残尿感がある、尿の勢いが弱くなった場合
- 尿漏れが気になり、日常生活に支障がある場合
- 腰や脇腹に突然の激しい痛みが出た場合(結石の疑い)
- 高熱とともに背中や腰の痛みがある場合(腎盂腎炎の疑い)
- 精巣(睾丸)に痛みや腫れ、しこりを感じる場合
- PSA値が高いと指摘された場合
- 排尿に時間がかかる、出始めるまでに時間がかかる場合
- 尿道から膿のような分泌物が出る場合
特に注意が必要なのは、痛みを伴わない血尿です。痛くないからといって放置してしまいがちですが、膀胱がんや腎がんの初期症状である可能性があり、早めの検査が推奨されます。また、精巣の急激な痛みと腫れは精巣捻転の可能性があり、発症から6時間以内の処置が理想的とされる緊急性の高い状態です。
受診・診療の流れ
泌尿器科を受診した際の一般的な診療の流れを紹介します。
- 問診:排尿に関する症状(頻度、痛み、血尿の有無など)、いつから症状があるか、既往歴、服用中の薬などを医師に伝えます。排尿に関する質問票に記入を求められることもあります。
- 尿検査:ほとんどの場合、尿検査が行われます。尿中の白血球、赤血球、細菌、がん細胞の有無などを調べる基本的で重要な検査です。受診前にはなるべく排尿せずに来院するよう案内されることがあります。
- 身体診察:腹部の触診、腎臓周辺の叩打痛の確認、男性では前立腺の触診(直腸診)を行うことがあります。
- 追加検査:症状に応じて、超音波検査(腎臓・膀胱・前立腺の画像確認)、血液検査(腎機能、PSA値など)、尿流量測定(排尿の勢いを測る)、残尿測定、CT検査、膀胱鏡検査(膀胱の内部を直接観察)などが行われます。
- 診断と治療方針の説明:検査結果をもとに、考えられる疾患と治療の選択肢が説明されます。薬物療法で対応できるものから、手術が必要なものまで、患者さんの状態に合わせた治療計画が立てられます。
泌尿器科の受診に対して恥ずかしいと感じる方もいますが、プライバシーへの配慮が行き届いた医療機関がほとんどです。症状を放置することで悪化するケースも多いため、気になる症状があれば早めに受診することが大切です。
泌尿器科で使われる主な検査・治療法
泌尿器科で用いられる代表的な検査・治療法を紹介します。
- 尿検査・尿培養検査:尿中の成分を調べる基本検査です。感染の原因菌を特定するために尿培養を行い、最適な抗菌薬を選択することもあります。
- 超音波検査(エコー):腎臓、膀胱、前立腺などをリアルタイムで画像化する検査です。痛みがなく被曝もないため、広く使われています。結石や腫瘍、水腎症の確認などに有用です。
- 尿流量測定・残尿測定:排尿の勢い(流速)や、排尿後に膀胱に残っている尿の量を測定します。前立腺肥大症や神経因性膀胱の診断に役立ちます。
- 膀胱鏡検査:細いカメラを尿道から膀胱に挿入して内部を直接観察する検査です。膀胱がんの診断や血尿の原因精査に用いられます。軟性膀胱鏡の普及により、以前に比べて苦痛が軽減されています。
- PSA検査:血液中の前立腺特異抗原(PSA)の値を測定する検査で、前立腺がんのスクリーニングに使われます。
- 体外衝撃波結石破砕術(ESWL):体の外から衝撃波を当てて尿路結石を細かく砕く治療法です。手術をせずに結石を治療でき、多くの場合、日帰りまたは短期入院で行われます。
- 経尿道的手術(TUR):尿道から内視鏡を挿入して行う手術の総称です。膀胱腫瘍の切除(TUR-BT)や前立腺の切除(TUR-P)が代表的で、体に傷が残りにくい治療法です。
- 腹腔鏡手術・ロボット支援手術:腹部に小さな穴を開けてカメラや手術器具を挿入して行う手術です。前立腺がんや腎がんの手術で広く行われています。ロボット支援手術(ダヴィンチ手術)は精密な操作が可能で、合併症のリスク低減や早期回復が期待できます。
- 薬物療法:前立腺肥大症に対するα遮断薬・5α還元酵素阻害薬、過活動膀胱に対する抗コリン薬・β3作動薬、感染症に対する抗菌薬、ED治療薬(PDE5阻害薬)など、疾患に応じた薬物療法が行われます。
- 骨盤底筋訓練:尿失禁の改善を目的として、骨盤底の筋肉を鍛える運動療法です。特に女性の腹圧性尿失禁に有効とされ、泌尿器科で正しい方法を指導してもらえます。
泌尿器科の選び方・ポイント
泌尿器科の医療機関を選ぶ際に参考になるポイントを紹介します。
- 検査設備:超音波検査機器、尿流量計、軟性膀胱鏡などの検査設備が院内に整っているかを確認しましょう。一度の受診で複数の検査を受けられると、通院の負担が軽減されます。
- 専門分野:結石治療に強い、がん治療に強い、女性泌尿器科を専門とするなど、医師や医療機関によって得意分野が異なります。自分の症状に合った専門性を持つ医療機関を選びましょう。
- 女性への配慮:女性の患者さんにとって受診しやすい環境(女性医師の在籍、女性専用外来、待合室の配慮など)が整っているかも重要な選択基準です。
- プライバシーへの配慮:診察室の防音、受付での病名の呼称方法など、プライバシーに配慮した対応がなされている医療機関を選ぶと安心です。
- 手術対応力:手術が必要な疾患の場合、その医療機関で対応可能な手術の種類(腹腔鏡手術、ロボット支援手術など)や実績を確認しましょう。
- 通院のしやすさ:慢性疾患の管理や術後のフォローアップで定期通院が必要になることがあるため、通いやすい場所にあるかどうかは重要です。
- 連携病院の有無:クリニックで対応が難しい症例の場合に、大きな病院や専門施設への紹介がスムーズに行えるかも確認しておくとよいでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 泌尿器科は男性しか受診できないのですか?
いいえ、泌尿器科は男女を問わず受診できます。膀胱炎、尿失禁、腎結石、血尿の精査など、女性にも多い疾患を幅広く扱っています。女性泌尿器科を専門とする外来を設けている医療機関もあります。
Q. 膀胱炎を繰り返すのですが、どうすればよいですか?
膀胱炎が繰り返す場合は、背景に何か原因がないかを調べるために泌尿器科を受診してください。日常生活では、水分を十分に摂る、排尿を我慢しない、トイレ後の拭き方に注意するなどの予防策が推奨されます。
Q. 血尿が出ましたが痛みがありません。受診は必要ですか?
痛みのない血尿(無症候性血尿)は、膀胱がんや腎がんの初期症状である可能性があるため、速やかに医療機関(泌尿器科または内科)を受診してください。痛みがないからといって安心できるものではありません。
Q. 夜中にトイレに何度も起きるのは異常ですか?
夜間に2回以上排尿のために起きる場合は「夜間頻尿」と呼ばれ、泌尿器科の相談対象です。前立腺肥大症、過活動膀胱、水分の摂り方、心臓や腎臓の機能など、さまざまな原因が考えられます。
Q. 前立腺がんの検査はいつ頃から受けるべきですか?
50歳以上の男性にはPSA検査を受けることが推奨される場合が多いです。家族歴がある場合は40歳代からの検査を検討してもよいでしょう。PSA検査は血液検査のみで行えます。
Q. 尿路結石を予防する方法はありますか?
水分を十分に摂ること(1日2リットル以上が目安)が最も重要な予防策です。また、塩分や動物性タンパク質の過剰摂取を避け、バランスのよい食事を心がけることも推奨されます。シュウ酸を多く含む食品(ほうれん草、チョコレート、ナッツなど)はカルシウムと一緒に摂ると吸収が抑えられるとされています。
Q. ED(勃起障害)は泌尿器科で相談できますか?
はい、EDは泌尿器科の診療範囲です。原因に応じてPDE5阻害薬の処方や生活習慣の指導などが行われます。EDは糖尿病や動脈硬化など全身疾患のサインである場合もあるため、早めの受診が大切です。
Q. 子どものおねしょ(夜尿症)は泌尿器科で診てもらえますか?
はい、小学校入学以降もおねしょが続く場合は、泌尿器科または小児科で相談できます。泌尿器科では膀胱の機能や尿量などを詳しく評価し、必要に応じて治療を行います。
Q. 受診前に注意することはありますか?
尿検査を行うことが多いため、受診直前に排尿しないよう心がけてください。また、現在服用中の薬がある場合はお薬手帳を持参すると診察がスムーズです。
Q. 泌尿器科の受診は恥ずかしいのですが…
プライバシーに配慮した診察を行っている医療機関がほとんどです。排尿トラブルは誰にでも起こりうる症状であり、我慢して悪化させるよりも早めに相談することで、生活の質を大きく改善できる可能性があります。
まとめ
泌尿器科は、腎臓・膀胱・尿道・前立腺など尿路と男性生殖器の疾患を専門的に診療する診療科です。排尿の悩み、血尿、結石の痛みから、がんの早期発見・治療まで幅広い領域をカバーしています。排尿に関する症状は生活の質に直結するにもかかわらず、受診をためらう方が少なくありません。気になる症状がある場合は早めに泌尿器科に相談し、適切な診断と治療を受けることで、快適な日常生活を取り戻しましょう。